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展着剤の種類と選び方【農家が解説】殺菌・殺虫・除草剤で使い分けるべき理由

農業・園芸 農薬活用 病害虫・除草対策
2026年5月 読了目安 約10分

農薬を散布しているのに「効きが悪い」「雨のあとに効果が薄れた気がする」と感じたことはありませんか。その原因のひとつが展着剤の未使用、または種類の選び間違いです。展着剤は農薬の種類によって使い分ける必要があるのに、意外と知られていません。りんご農家として長年使ってきた実体験をもとに、種類・成分・選び方・おすすめ商品まで徹底解説します。

展着剤とは何か:農薬の縁の下の力持ち

展着剤とは、農薬の散布液に数滴加えることで薬剤の付着性・浸透性・固着性を高める補助剤です。展着剤自体には直接的な農薬効果はありませんが、農薬の力を最大限に引き出すために欠かせない存在です。

植物の葉の表面にはクチクラという薄いワックス層があり、水をはじく性質があります。また害虫の体表にも同様の撥水性があります。そのため農薬の散布液は、そのままでは葉の上で水玉になって転がり落ちてしまうことがあります。展着剤に含まれる界面活性剤がこの表面張力を下げることで、薬液を葉全体にムラなく広げてしっかり付着させます。台所洗剤が油を水になじませるのと同じ原理です。

💡 展着剤が特に効果的な場面

散布後に雨が予想されるとき / ネギ・キャベツ・イネなど葉が濡れにくい作物 / りんごなどワックス層の厚い果樹 / スギナ・ドクダミなど難防除雑草の除草 / 農薬散布間隔が長くなる時期

🍎 りんご農家の実体験

りんごの葉はワックス層が厚く、農薬が弾かれやすい作物のひとつです。展着剤を使い始めてから、散布後に雨が降っても防除効果が落ちにくくなりました。以前は「また散布しなきゃ」という状況もありましたが、展着剤を入れることで作業回数を間違いなく減らせます。

展着剤の種類はこんなにある

展着剤と一口に言っても、じつは種類が非常に多く、成分・目的・適用農薬がそれぞれ異なります。ホームセンターや農協で並んでいる展着剤だけでも、これだけの種類があります。

ダイン
汎用
マイリノー
殺菌・殺虫
ササラ
殺菌・殺虫
ブラボー
機能性
アプローチBI
浸透特化
まくぴか
シリコーン系
サーファクタント30
除草専用
クサリノー
除草専用
アビオンE
固着剤

これだけ多くの種類がある理由は、農薬の目的(殺虫・殺菌・除草)や作物の種類、散布条件によって必要な「展着の働き」が異なるからです。すべての農薬に万能に対応できる展着剤は存在せず、使い分けが重要になります。

なぜ展着剤を「使い分ける」必要があるのか

展着剤で最も重要なのが「使い分け」です。殺菌・殺虫剤に使うものと、除草剤に使うものは別物です。ここを間違えると効果が出ないだけでなく、作物に薬害を引き起こすリスクがあります。

理由は成分の働きの違いにあります。殺菌・殺虫剤用の展着剤は「農薬を作物の葉や害虫にしっかり付着させる」ことが目的です。一方、除草剤用のアジュバントは「雑草の体内に農薬をより深く浸透・吸収させる」ことが目的で、設計の方向性がまったく異なります。

仮に除草剤専用アジュバントを殺菌・殺虫剤に混ぜると、薬剤が植物体内に必要以上に浸透して薬害を引き起こすことがあります。また機能性展着剤(アプローチBIなど)も浸透性が高い分、相性の悪い農薬と混ぜると薬害が出るリスクがあります。

農薬の種類展着剤の主な目的適した展着剤
殺菌剤・殺虫剤(一般)葉・害虫への付着・固着性を高めるマイリノー ダイン ササラ
殺菌剤・殺虫剤(難防除)付着+病原菌・害虫への浸透を高めるブラボー アプローチBI まくぴか
除草剤雑草への浸透・吸収を積極的に促進サーファクタント30 クサリノー
どちらにも(汎用)付着性の向上(効果は中程度)ダイン(家庭菜園向け)
⚠️ 混ぜる順番「テ・ニ・ス」を守る

ンチャクザイ(展着剤)→ ュウザイ(乳剤)→ イワザイ(水和剤・水溶剤)の順で水に溶かします。ただしシリコーン系(まくぴかなど)は泡立ちを防ぐため例外的に最後に加えてください。アプローチBIは「水→アプローチBI→乳剤→水和剤」の順が推奨されています。必ずラベルで確認してください。

① 殺菌・殺虫剤に使う展着剤(一般展着剤)

最もスタンダードなカテゴリです。薬液を葉や害虫にムラなく付着させ、雨で流れ落ちにくくすることが主な目的です。

マイリノー(日本農薬)

農家に最も広く使われている殺菌・殺虫剤用展着剤のひとつです。有効成分はポリアルキレングリコールアルキルエーテル27.0%で、ダインと同じ成分です。最大の特徴は低起泡性で、泡立ちを抑えるだけでなく他の農薬が出す泡まで消す消泡作用があります。大量の薬液調製時の作業効率が段違いで、プロ農家が選ぶ理由のひとつです。

🍎 りんご農家の実体験

農薬散布のメインで使っているのがマイリノーです。私のメインもこれです。コスパの良さに加え、泡立ちが少ないので噴霧器への投入量の確認がしやすく、作業がとても楽です。ラベルに「りんご」が明記されているので安心して使っています。

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殺菌・殺虫剤用 プロ定番

日本農薬 マイリノー(展着剤)

有効成分:ポリアルキレングリコールアルキルエーテル27.0%|農水省登録第12844号|普通物

低起泡・消泡作用 殺菌・殺虫剤用 りんご対応 5,000〜20,000倍

農家向けの本格展着剤。低起泡性で散布液の調製がしやすく、噴霧器の目詰まりも防ぎます。稲・麦・キャベツ・ねぎ類・りんごなど幅広い作物に対応。泡が立ちにくいため大量の薬液調製時に特に威力を発揮します。

ササラ(アグロカネショウ)

有効成分はポリオキシエチレンアルキルエーテル55.0%で、マイリノー・ダインより有効成分の濃度が高く、濡れ性と付着性に優れています。散布器の噴口やフィルターの目詰まりを防ぐ効果があるほか、薬剤が均一に広がり散布後の汚れ(農薬成分の残留)も軽減するという特徴があります。りんごを含む幅広い果樹・野菜に対応しています。

🍎 りんご農家の実体験

ササラはマイリノーと使い分けながら試してきました。有効成分の濃度が高い分、濡れにくい葉への広がりがよく感じられます。噴口の目詰まり防止効果は実際に体感できており、散布後のメンテナンスが楽になりました。

殺菌・殺虫剤用 高濃度タイプ

アグロカネショウ 展着剤ササラ

有効成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル55.0%|農水省登録第22156号|普通物

高い濡れ性・付着性 目詰まり防止 汚れ軽減効果 りんご対応

有効成分濃度が高く、葉が濡れにくい作物への浸透・付着性に優れた展着剤。噴口やフィルターの目詰まりを防ぎ散布作業を効率化。稲・麦・果樹・野菜など幅広い作物に対応しています。

② 病原菌・難防除害虫に強い展着剤(機能性展着剤)

一般展着剤より一歩進んで、「付着させるだけでなく、病原菌や害虫の体内に農薬を浸透させる」機能を持った展着剤があります。ブラボーとアプローチBIがその代表です。難防除の病害虫や、通常の展着剤では効果が出にくいケースで力を発揮します。

ブラボー(アグロカネショウ)

有効成分はソルビタン脂肪酸エステル48.0%、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル28.0%、ポリナフチルメタンスルホン酸ジアルキルジメチルアンモニウム2.5%という3成分の組み合わせです。一般展着剤とは成分の種類からして異なります。

ブラボーの最大の特徴は、害虫・病原菌への浸透性です。薬液を葉に付着させるだけでなく、病原菌の体や害虫の表皮に農薬を浸み込ませることで主剤の効果を底上げします。作物表面の汚れ軽減効果もあり、散布後の見た目が残りにくいのも特徴の一つです。また非イオン系と陽イオン系の界面活性剤を組み合わせた独自の成分構成により、一般展着剤より広い病害虫スペクトラムに対応しています。

ただし、おうとう(さくらんぼ)・もも(桃)には薬害を生じるおそれがあるため使用できません。使用前に必ずラベルを確認してください。

🍎 りんご農家の実体験

ブラボーを使ってみると、薬液が葉や実にまんべんなく付着する感覚がわかります。実際に「りんごにいい感じ」という使用感があり、数日経っても薬剤の効果が持続している印象です。一般展着剤より少し価格は高めですが、難防除の病害虫に悩んでいるときには試す価値があります。

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機能性展着剤 病原菌・害虫浸透

アグロカネショウ 展着剤ブラボー

有効成分:ソルビタン脂肪酸エステル48.0%、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル28.0%、ポリナフチルメタンスルホン酸ジアルキルジメチルアンモニウム2.5%|農水省登録第20105号|普通物

病原菌・害虫に浸透 3成分組み合わせ 汚れ軽減効果 散布液10Lに5〜10ml

害虫や病原菌に積極的に浸透させて主剤の効果を安定させる機能性展着剤。作物表面に広がり汚れを軽減し、薬液のつきにくい作物にもよく付着します。りんご・なし・かんきつ・野菜類に対応。※おうとう・もも・幼苗期・高温時の使用は避けてください。

アプローチBI(丸和バイオケミカル)

有効成分はポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル50.0%(イソプロピルアルコール20〜30%含有)。これまでの展着剤と一線を画す浸透性特化型の機能性展着剤(スプレー・アジュバント)です。

農薬の粒子を細かくしてクチクラの割れ目や気孔から農薬を植物体内へ浸透させることが最大の特徴です。ワックス層を溶かすのではなく微細化した農薬を気孔から送り込むため、展着剤そのものによる薬害がありません。殺虫剤への加用では樹体への浸透が早まり、土壌病害虫の防除効果も向上します。

また非選択性除草剤(グリホサート系など)にも使用でき、幅広い用途に対応しています。一般展着剤の5,000〜10,000倍に対し、アプローチBIは200〜1,000倍と高濃度で使用します。

⚠️ アプローチBIで注意が必要な農薬

キノキサリン系・ストロビルリン系・アニリド系の農薬(アミスター20フロアブル、カンタスドライフロアブル、デランフロアブル、モレスタン水和剤など)には浸透性が強すぎて薬害が出る恐れがあります。作物の幼苗期・高温時も使用を避けてください。使用前に必ずラベルを確認してください。

🍎 りんご農家の実体験

アプローチBIは浸透力の強さが体感できる展着剤です。タンク内がぬるぬるする独特の感触があり、薬液が葉にしっかり絡みついている感じがあります。ただし使える農薬が限られているため、混用前に必ず確認するようにしています。正しく使えば効果は確かです。

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機能性展着剤 浸透性特化型

丸和バイオケミカル アプローチBI(展着剤)

有効成分:ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル50.0%|農水省登録あり|普通物

気孔からの浸透性抜群 薬害が少ない 殺虫・殺菌・非選択性除草剤に対応 200〜1,000倍(高濃度)

農薬粒子を微細化して気孔から植物体内へ浸透させる機能性展着剤(アジュバント)。殺虫剤・殺菌剤の効果と残効性を向上させ、非選択性除草剤にも対応。ワックスを溶かさず薬害リスクが低い設計です。りんご・ぶどう・稲・野菜・花き・芝など幅広く使用可能。※一部農薬とは混用不可。

③ 除草剤に使う展着剤(増強展着剤)

除草剤に展着剤を使う目的は殺菌・殺虫剤とは根本的に異なります。「雑草の葉からしっかり吸収させ、根まで届かせる」ことが目的で、スギナ・ドクダミ・チガヤなどの難防除雑草には専用アジュバントが効果的です。一般展着剤(ダインやマイリノー)でも除草剤に加用できますが、専用品とは効果の次元が違います。

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除草剤専用 増強展着剤

丸和バイオケミカル サーファクタント30(展着剤)

有効成分:ポリオキシエチレンドデシルエーテル30.0%|農水省登録第7019号|普通物

除草剤専用 難防除雑草にも効果的 茎葉からの吸収を促進 多くの除草剤に混用可

除草剤専用の機能性展着剤。スギナ・ドクダミ・チガヤなど難防除雑草に対して除草剤の吸収を積極的に促進します。非イオン系のため多くの除草剤に混用可能。茎葉からの効果を増強させます。※養魚田などでは使用不可。

⚠️ 除草剤への展着剤加用は必ずラベル確認を

農作物の生育期に使う選択性除草剤に展着剤を加えると薬害リスクが高まります。除草剤のラベルに「展着剤の加用不可」と記載されている場合は絶対に混ぜないでください。非農耕地用除草剤(サンフーロン・ラウンドアップなど)への加用は比較的安全ですが、必ず事前確認してください。

④ オールマイティに使える展着剤

「使い分けが難しい」「まず一本試したい」という方には、住友化学園芸のダインが最適です。殺菌剤・殺虫剤・除草剤のほぼすべてに混用でき、100mlボトル一本で家庭菜園なら数年間使い続けられます。機能性展着剤には及びませんが、「農薬をしっかり付着させる」という基本の役割は十分果たします。家庭菜園にはこれが一番おすすめです。

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家庭菜園〜農家 オールマイティ

住友化学園芸 ダイン 展着剤 100ml

有効成分:ポリアルキレングリコールアルキルエーテル27.0%|農水省登録第4951号|普通物

殺虫・殺菌・除草剤に対応 散布液1Lに数滴でOK 雨による流亡を軽減 100mlで数年使える

ほぼすべての農薬に混用できる一般展着剤の定番品。散布液1Lあたり0.1〜0.3ml(2〜6滴)加えるだけで薬液の付着性と耐雨性が高まります。100mlボトル一本が家庭菜園では数年持つコスパの良さが魅力。まず展着剤を試したい方の最初の一本に最適です。

全展着剤の比較まとめ

商品名殺菌・殺虫除草剤浸透力特徴こんな人に
マイリノー普通低起泡・消泡作用果樹農家全般
ササラ普通高濃度・目詰まり防止果樹・野菜農家
ブラボー高い病原菌・害虫に浸透・汚れ軽減難防除病害虫対策
アプローチBI△※最高気孔から浸透・薬害少ない浸透性を最重視する農家
サーファクタント30高い難防除雑草への吸収促進本格除草・農家
ダイン普通何にでも使える手軽さ家庭菜園・初心者

※アプローチBIは非選択性除草剤に対応。選択性除草剤への加用は薬害リスクあり。

あなたの状況に合う選び方

🍎 果樹農家・本格栽培

マイリノーかササラを殺菌・殺虫用に。難防除病害虫にはブラボーかアプローチBIを状況で使い分け。除草にはサーファクタント30を別途用意。

🌿 除草に力を入れたい

サーファクタント30一択。スギナ・ドクダミなどの難防除雑草に対しては一般展着剤との効果の差が明確に出ます。

🥬 家庭菜園・初めての方

ダイン一本でOKです。殺虫・殺菌・除草剤すべてに使えて100mlで数年持ちます。まず展着剤とはどんなものかを試すのに最適。

💡 迷ったときの判断基準

「家庭菜園→ダイン」「農家・果樹→マイリノー」「本格除草→サーファクタント30」がおすすめです。

📌 成分でみる展着剤の違い(簡単まとめ)

  • マイリノー・ダインはポリアルキレングリコールアルキルエーテル系で付着性向上が得意。
  • ササラはポリオキシエチレンアルキルエーテル系で濃度が高く濡れ性に優れる。
  • ブラボーはソルビタン脂肪酸エステル系(3成分)で病原菌・害虫への浸透に特化。
  • アプローチBIはポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル系で気孔からの浸透性が最も高い。
  • サーファクタント30はポリオキシエチレンドデシルエーテル系で雑草への浸透促進に特化。

📋 この記事のまとめ

  • 展着剤は農薬の付着・浸透・固着を助ける補助剤。直接的な農薬効果はない
  • 展着剤の種類は非常に多く、成分・目的・適用農薬がそれぞれ異なる
  • 殺菌・殺虫剤用と除草剤用では目的が根本的に違い、使い分けが必須
  • 農家・果樹栽培ならマイリノーササラが基本の殺菌・殺虫用
  • 難防除病害虫にはブラボー(浸透・汚れ軽減)かアプローチBI(気孔浸透)
  • 本格除草・難防除雑草にはサーファクタント30などの除草剤専用増強展着剤
  • 家庭菜園・初めてならダイン一本でOK
  • 混ぜる順番は「テ・ニ・ス」、ラベルの確認を忘れずに


※農薬の使用にあたっては、ラベルの記載内容および農薬取締法を必ず遵守してください。

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