りんご農家の一年は、ひと言で言えば「休みがない」です。
雪が積もる冬も、暑い夏も、季節ごとにやるべき作業があります。そしてそれは、カレンダー通りには進みません。天気、気温、病害虫の発生状況——自然相手の仕事は、常に判断の連続です。
この記事では、青森の兼業りんご農家として、年間の農作業を月別にまとめました。平日は別に本業を持ちながら、早朝・夕方・休日に農作業をこなすリアルな時間割も含めて書いています。
目次
りんご農家の農作業カレンダー【年間スケジュール】
まず全体の流れをまとめます。
| 時期 | 主な作業 | 備考 |
|---|---|---|
| 12〜3月 | 剪定 | 冬の主作業。木の骨格を整える |
| 4〜5月 | 摘花・授粉(まめこばち) | 花の数を調整し、受粉を確実に |
| 4〜9月 | 防除 | スピードスプレーヤーで年13回 |
| 5〜6月 | 摘果 | 無袋栽培のため袋かけ作業なし |
| 5〜10月 | 草刈り・夏の管理 | 乗用草刈り機で対応・徒長枝の剪定 |
| 9〜11月 | 収穫・選果・出荷 | 弘果市場への出荷が中心 |
文字にすると整然として見えますが、実際には複数の作業が同時進行します。特に初夏から秋にかけては、防除・草刈り・摘果が重なる時期があり、本業との調整が必要になります。農機の管理も同時進行です。
12〜3月:剪定と後片付け
冬の主役は剪定です。葉が落ち、樹の骨格が見えるこの時期に、翌年の実のつき方を決める剪定をおこないます。どの枝を残し、どの枝を切るか——一本一本の判断の積み重ねが、秋の収量と品質に直結します。
剪定が終わったあとの作業が、意外と大変です。
切り落とした枝の片付け、雪の重みで折れたりんごの樹の整理、そして状態の悪い樹の伐採。太い幹はチェーンソーで切り、回収して薪割り機にかけます。割った薪は冬の暖房として活きます。りんごの木は火持ちがよく、薪として優秀です。
細い剪定枝は、園地内で焼却します。火事のリスクがあるため、風の強い日や乾燥が続く時期は避け、必ず状況を見ながらおこないます。
父が生きていた頃、この時期の剪定の判断は父が全部やっていました。何十年もの経験が詰まった作業です。今は農作業をお願いしている方と一緒に進めています。
私自身、父が生きていた頃は力仕事の手伝いが中心で、剪定の技術はほとんど教わっていません。もっと教えてもらえばよかったと、今も強く感じています。接ぎ木の技術も同じです。父がいなくなってから、その大切さを痛感しています。
現在は農作業を手伝ってくれる方と相談しながら進めています。経験者の目があることは、本当に心強いです。
4〜5月:摘花・授粉(まめこばち)
春になると摘花と授粉の作業が始まります。
りんごは自分の花粉では実りにくいため、他の品種の花粉で授粉させる必要があります。青森では「まめこばち」と呼ばれる小さなハチを使った自然授粉が一般的で、私のりんご園でもこの方法を採用しています。
摘花は、一つの花芽についている複数の花のうち、中心花を残して余分な花を取り除く作業です。これが後の摘果作業の量にも影響します。
この時期の作業は、父の頃から手伝いはしていたものの、主体的にやった経験が少なく、今も勉強しながら進めています。
4〜9月:防除(スピードスプレーヤーで年13回)
防除は、りんご栽培の中で特に緊張する作業です。
病害虫や病気を引き起こす菌からりんご、りんご樹を守るため、スピードスプレーヤー(SS機)という農薬散布専用の機械を使って、年間13回以上散布が必要です。
散布のタイミングは、病害虫の発生サイクルや天候に合わせて決まります。本業がある日でも、防除の時期が来れば早朝に対応します。
防除の前日は、正直なところ緊張します。寝坊できない、天候が変わるかもしれない、機械のトラブルが起きたらどうしよう——そういった気持ちが重なって、夜中に何度も目が覚めることがあります。今もまだ、慣れたとは言えません。
スピードスプレーヤーも、最初はほとんど操作経験がなく、おっかなびっくりで動かしていました。今も似たようなものですが、少しずつ感覚はつかめてきています。
農薬の選定や散布時期については、信頼できる方に相談に乗ってもらえる環境があります。これがなければ、もっと不安だったと思います。
5月〜6月:摘果
一つの花芽に複数の実がつくため、品質の高い実を残して余分な実を取り除く「摘果」をおこないます。
一本の樹に対して、丁寧に実の状態を確認しながら進める根気のいる作業です。ここで手を抜くと、秋の品質に直接影響します。
父が多品種を育てていた時代は、品種ごとに摘果のタイミングが異なるため、この時期が特に忙しかったと思います。今はふじを中心にしているため、作業が集中しやすい反面、管理はシンプルになりました。
5〜10月:草刈り・夏の管理
夏場の草刈りは、体力的に消耗する作業です。園地の草は、放置すると病害虫の発生源になるほか、風通しや日当たり、作業性の悪さにも影響します。定期的に刈ることが、品質管理の一部です。
乗用草刈り機を使って対応していますが、夏に向かうにつれて草の伸びが容赦なくなります。刈っても刈っても追いつかない感覚があります。
また、りんごの木を伐採した跡地であっても草刈りは必要です。木がなくなっても、土地の管理はなくなりません。園地を縮小したことで面積は減りましたが、草刈りの手間は思ったほど楽になっていないのが正直なところです。
農機具のメンテナンスは、簡単なものや経験のある箇所であれば自分でできます。草刈り機のベルト交換や刃の研磨、グリース注入といった作業は、自分でやることでコストを抑えられていますし、機械の状態を自分で把握できるのは安心感につながっています。
9〜11月:収穫・選果・出荷
一年の集大成が収穫です。
現在の品種構成はふじが中心で、少量のつがると王林があります。つがるは9月頃から、ふじは10月末〜11月が収穫のピークです。
父が生存中は、つがる・ジョナゴールド・王林・とき・世界一・早生ふじ・ふじと、多品種を育てていました。時期をずらして収穫することで収入を分散し、一品種が不作でもリスクを抑える——農家としての経営判断がそこにありました。今思えば、父なりのリスク管理だったと思います。
収穫したりんごは、サイズや品質で選果し、りんご箱に詰めて弘果(青森県弘前市)へ出荷します。市場価格は相場によって変動するため、どの程度の収入になるかは出荷してみなければわかりません。
休日に収穫、選果し、平日に本業が終わった後に弘果へ出荷(搬出)することがほとんどです。
りんご箱の購入など、細かい段取りも毎年発生します。このあたりも、相談に乗ってくれる方がいることで、スムーズに進められています。
収穫の時期は、作業量が多い一方で、一年の農作業が形になる瞬間でもあります。木に実ったりんごを手で取るときの感覚は、他の作業とは違うものがあります。
収穫、出荷が終わったら園地の後片付けに入ります。降雪があることを前提に片付けたり、りんご樹が折れないように、害獣に樹皮を食べ尽くされないように保護します。
園地には父の遊び心で、シュガープルーン・桃・さくらんぼ・柿・西洋なし・和なしも植えられています。これらは市場出荷はせず、家族や知人へのプレゼントになります。自分で育てた果物を誰かに渡せることは、農業の楽しみの一つです。
なお、シュガープルーンの成木については、以前こちらの記事に書きました。
→ シュガープルーンの木を切りました。少し寂しい話
兼業農家としての時間の使い方
本業と農業を両立するために、時間の使い方はおおよそこうなっています。
- 防除・早朝作業:本業がある日でも、早朝に農作業を済ませてから出勤
- 草刈り・収穫:休日・有給を組み合わせて対応
- 農機具メンテ:自分でできる範囲は週末に
- 各種相談・段取り:農作業を手伝ってくれる方と連携
ここに書いた作業以外にも、つるまわし、反射シートの設置、葉取り、鳥対策など作業はまだまだあります。
季節によって日の出・日の入りの時間が変わるため、使える時間も変わります。夏は早朝4時台から動けますが、冬は暗い中での作業になります。
農作業の多くは、お願いしている方が平日の日中に進めてくれています。自分が直接関与するのは、判断が必要な作業(剪定の方針、防除のタイミング確認など)や、休日のまとまった作業が中心です。
兼業農家として農業を続けるには、「全部自分でやる」という発想を手放すことも必要でした。人に任せることへの最初の抵抗感は今もゼロではありませんが、それが持続可能な農業の形だと今は思っています。
父から引き継いで気づいたこと
農業を引き継いで数年、感じることがあります。
父が生きていた頃、私は力仕事の手伝いが中心でした。摘花・摘果の細かい作業は父に任せきりで、剪定の技術も、接ぎ木の方法も、スピードスプレーヤーの操作も——ほとんど教わっていませんでした。
もっと教えてもらえばよかった。もっと聞いておけばよかった。
今になってそう感じることが、何度もあります。農業の技術は、言葉だけでは伝わらない部分が多く、一緒に作業する時間の中でしか学べないことがたくさんあります。
農業を継ぐかもしれない方、親と一緒に農作業できる時間がある方には、できる限りその時間を大切にしてほしいと思います。
まとめ:りんご農家の一年は、判断の連続
剪定・摘果・防除・収穫——農作業にはそれぞれ適切なタイミングがあります。そのタイミングを逃さないように動き続けるのが、りんご農家の一年です。
兼業農家としては、本業との両立が常に課題です。全部を完璧にこなすことはできませんが、農業を続けることの意味を自分なりに見つけながら、今年もりんごの木と向き合っています。
りんご農家の収入の現実については、こちらの記事にまとめています。
→ りんご農家の息子が、父のりんご園を8分の1に縮小した話