※本記事は筆者の実体験と個人的な考えをまとめたものです。特定の制度や金融商品への加入を勧めるものではありません。
結論:農家の順番は「収入保険 → NISA → 余裕があればiDeCo」
先に結論を書きます。
NISAとiDeCoで迷っている農家の方は多いと思います。私も迷いました。ただ、この2つを比べる前に決めるべきことがあります。
私が今のところ考えている順番は、こうです。
- 収入保険で、所得の振れを受け止める
- NISAを使う(いつでも引き出せる)
- 余裕がある人だけ、iDeCo(ただし出口まで考えてから)
そして農家には、会社員にはない制度が2つあります。農業者年金と小規模企業共済です。「NISAかiDeCoか」で迷っている時点で、この2つが視野に入っていません。
農家の実感
私が遠回りしたのは、NISAとiDeCoを同じものさしで比べようとしたからでした。この2つは、有利になる場所がそもそも違います。比べる前に、そこを分ける必要がありました。
「税制上有利」には、まったく違う2種類がある
これが迷いの正体です。
種類1:運用益が非課税(NISA)
通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかります。NISAはこれがかかりません。増えた分に税金がかからないという有利さです。
ただし、払ったお金そのものは所得から引けません。今年の税金は1円も減りません。
種類2:払った掛金が所得から引ける(iDeCo・農業者年金・小規模企業共済)
こちらは逆で、払った掛金がまるごと所得控除になります。今年の所得税と住民税が減ります。
ただし、こちらには続きがあります。受け取るときに課税されます。ここは後で詳しく書きます。
ここだけ押さえてください
NISA=増えた分に税金がかからない。
iDeCoなど=今年の税金が減る。ただし受け取るときに課税される。
有利になる場所が違うので、「どっちが得か」という問い自体が成り立ちません。
その前に:農家の所得の振れは、投資ではなく保険で受ける
ここが、一般的な投資の記事には絶対に書かれていない部分です。
農業は天候に左右されます。霜、雹、台風、猛暑。収入が読めません。
この不安定さを投資でどうにかしようとするのは、筋が違うと思っています。投資は増えるか減るかが読めないものなので、不安定さに不安定さを重ねることになります。
農家には、そのための制度があります。収入保険です。私も加入しています。
収入保険はどういう仕組みか
私が加入している内容で説明します。
補償の対象は、品目を問わず農産物の販売収入全体です。りんごだけ、といった区切りがありません。そして自然災害だけでなく、価格低下・盗難・病気なども対象になります。
補償の基準はこうです。
基準収入の9割を下回った場合に、下回った額の9割を補てんする
基準収入は、過去5年の平均収入と、その年の見込収入の、いずれか小さい額で決まります。
つまり「例年どおりならこれくらい」という線を引いて、そこから1割以上落ち込んだら、落ちた分の9割が戻ってくる、という形です。
加入には青色申告が必要です
ここが重要です。収入保険は、青色申告をしている農業者でないと加入できません。
私は自分で確定申告をしていますが、青色申告をしていることが、こういうところで効いてきます。帳簿をつけるのは面倒ですが、それ自体が加入資格になっているわけです。
確定申告のやり方は別の記事に書いています。
→ 農家の確定申告のやり方【実体験】
→ マネーフォワードで農業の帳簿をつける
農家の実感
収入保険に入ってから、気持ちが少し楽になりました。「最悪の年でもここまでは戻る」という線が見えていると、判断が落ち着きます。投資の話は、その線を引いてからだと思っています。
この保険、相互扶助として成立するのか
正直に、疑問に思っていたことを書きます。
農家の収入が下がるときは、たいてい多くの農家が同時に下がります。霜が降りれば地域一帯がやられますし、豊作で価格が落ちれば、それは全国的に起きます。
保険というのは、一部の人に起きた不運を、みんなで支える仕組みのはずです。でも農業の場合、全員が同時に不運になる。それで保険として成立するのか、と思っていました。
調べてみて、この疑問はそれほど的外れではなかったようです。
だからこそ、この制度には手厚い国庫補助が入っています。
- 保険料の50%が国庫補助
- 積立金の75%が国庫補助
- 事務費にあたる付加保険料にも補助(50%以内)
さらに仕組みも工夫されています。収入保険は「保険方式」と「積立方式」の組み合わせです。保険方式は掛け捨てですが、積立方式は自分のお金で、補てんに使われなければ翌年に繰り越されます。
整理すると、こうなります。
| 誰が負担するか | |
|---|---|
| 保険方式 | 加入者みんなで支え合う(相互扶助) |
| 積立方式 | 自分のお金(使わなければ翌年へ) |
| 国庫補助 | 国が支える(保険料50%・積立金75%) |
つまり相互扶助だけで成り立たせようとしていない。自助と公助を組み合わせた設計になっています。自治体が独自に上乗せ補助をしているところもあります。
私が感じた違和感は、制度をつくる側もわかっていて、そのうえでこの形にしたのだと理解しました。
まず確認すること:あなたは国民年金の第1号か、第2号か
ここが分かれ道です。同じ農家でも、使える制度と上限額がまったく違います。
- 第1号被保険者 … 国民年金を自分で納めている方
- 第2号被保険者 … 勤務先で厚生年金に加入している方
| 第1号被保険者 | 第2号被保険者 | |
|---|---|---|
| 農業者年金 | 加入できる | 加入できない |
| iDeCoの上限 | 月68,000円 | 勤務先の年金制度により変わる |
私は農業以外の収入もあり、厚生年金に加入しています。そのため農業者年金は対象外でした。iDeCoの上限も、私の場合は月20,000円です。
第1号被保険者の上限が月68,000円ですから、3倍以上の差があります。
ネットで見た「月68,000円まで」という数字が、そのまま自分に当てはまるとは限りません。ご自身の区分を、年金事務所などで確認してください。
農家が使える4つの制度
| 制度 | 掛金の扱い | 運用益 | 引き出し |
|---|---|---|---|
| NISA | 控除なし | 非課税 | いつでも売れる |
| iDeCo | 全額が所得控除 | 非課税 | 原則60歳まで不可・受取時に課税 |
| 農業者年金 | 全額が社会保険料控除 | 非課税 | 年金として受給 |
| 小規模企業共済 | 全額が所得控除 | ― | 廃業時などに受け取れる |
※ 2027年1月から、第1号被保険者のiDeCo拠出限度額が月75,000円に引き上げられる予定です。
農業者年金は、農家だけの制度です
正直なところ、私はこの制度をよく知りませんでした。今回調べて、内容を理解しました。
- 加入資格は①国民年金第1号被保険者 ②年間60日以上の農業従事 ③60歳未満
- 保険料は月2万円〜6万7千円の範囲で選べ、経営状況に応じて変更できる
- 保険料は全額が社会保険料控除
- 一定の要件を満たすと保険料の国庫補助がある
国庫補助の要件は、60歳までに保険料納付期間が20年以上見込まれること(39歳までの加入)、農業所得が900万円以下であること、認定農業者で青色申告をしていることなど、複数の条件をすべて満たす必要があります。
私は厚生年金に加入しているため、この制度は使えません。調べて初めて、対象外だと分かりました。
ただ、国庫補助が出る制度は多くありません。第1号被保険者の方、特に39歳までという年齢条件があるので、若い方ほど早めに農業委員会で確認する価値があると思います。
小規模企業共済は「離農したときの退職金」です
小規模企業共済は、個人事業主のための退職金の積み立てです。掛金は全額が所得控除になり、廃業したときに共済金として受け取れます。
農家には定年退職がありません。だから、やめるときにまとまったお金が入る仕組みを、自分で作っておく必要があります。園地を縮小した方、いずれ離農を考えている方には関係の深い制度です。
私は制度としては知っていますが、使っていません。iDeCoで所得控除の枠を使っていることと、自分の状況を考えたうえでの判断です。
iDeCoは「出口」まで考えてから
ここが、この記事でいちばん伝えたいところかもしれません。
iDeCoは「掛金が全額所得控除」という入口の話ばかりが語られます。でもiDeCoには出口があります。
受け取るときに課税されます。
受け取り方は、一時金か、年金か、その組み合わせです。それぞれ退職所得控除や公的年金等控除が使えますが、控除の枠には限りがあります。
他に退職金を受け取る予定がある方は、控除の枠が重なって、思ったほど非課税で受け取れないことがあります。受け取る時期によっても扱いが変わり、このルールは改正が多く、複雑です。
つまり、入口で減った税金が、出口で増えてしまう可能性があるということです。
ここだけ押さえてください
iDeCoは「節税」と言われますが、正確には課税の先送りに近い性格があります。
入口だけを見て決めない。60歳の自分がどういう状況になっているかを想像してから加入する必要があります。
「NISAが先」だと考えています
NISAを満額使えるようになって、それでも余裕がある方だけiDeCoでいいと思っています。
私自身はiDeCoもやっていますが、人に強くはすすめません。理由は3つです。
1 引き出せるから
iDeCoは原則60歳まで引き出せません。(資金拘束)
農業をやっていると、突然お金が出ていきます。機械が止まった、トラクターが壊れた、ハウスが雪でやられた。私もラジエーターの冷却水漏れで交換したことがあります。
そのときにiDeCoのお金は1円も使えません。NISAは売れば使えます。
2 出口がややこしくないから
NISAは受け取るときに何も考えなくていい。売れば終わりです。
iDeCoは前述のとおり、受け取り方と時期で税金が変わります。60歳の自分に宿題を残すことになります。
3 所得控除は「所得がある年」しか効かないから
所得控除は、所得があって初めて価値が出ます。不作の年はそもそも払う税金が少ないので、控除で減らせる税金もほとんどありません。
青色申告特別控除を使っている方は、その時点で課税所得がかなり圧縮されているはずです。すでに税金が少ない状態なら、所得控除の効き目もその分小さくなります。
会社員なら毎月の給料が読めるので「毎年これだけ控除する」という計画が立ちます。農家はそれができません。
私が使っているもの
まとめると、私が使っているのは収入保険とNISA、そしてiDeCoです。
収入保険は農業をやるうえでの土台だと考えています。所得が振れることは前提なので、まずここを固めました。
NISAはSBI証券で、いつでも引き出せる場所として使っています。
→ 農家の資産運用は、SBI証券と楽天証券の二択でいい
農業者年金は対象外、小規模企業共済は使っていません。
順番としては、土台(収入保険)→ 引き出せるお金(NISA)→ 引き出せないお金(iDeCo)という考え方で組み立てています。
まとめ
- 農家の順番は「収入保険 → NISA → 余裕があればiDeCo」
- 「税制上有利」には2種類ある。NISAは運用益が非課税、iDeCoなどは掛金が所得控除
- 所得の振れは投資ではなく保険で受ける。収入保険は販売収入全体が対象で、価格低下もカバーされる
- 収入保険は青色申告が加入の条件。帳簿をつけていることが資格になる
- 農業の不作は全員に同時に起きるため、相互扶助だけでは成立しにくい。だから保険料50%・積立金75%の国庫補助がある
- まず自分が国民年金の第1号か第2号かを確認する。使える制度も上限額も変わる
- 農業者年金は第1号被保険者のみ。私は厚生年金加入のため対象外でした
- 小規模企業共済は離農時の退職金。農家に定年はないので自分で作る
- iDeCoは出口まで考えてから。受け取るときに課税される。入口だけ見て決めない
- 私はNISAを満額使えて、なお余裕がある方だけiDeCoでいいと考えています
ご注意
本記事は筆者個人の経験と考えをまとめたものであり、特定の制度や金融商品への加入を勧めるものではありません。制度の内容・上限額・要件・補助率・税制は改正されることがあり、個々の状況によって有利不利は変わります。加入や税務の判断にあたっては、必ず各制度の公式サイトで最新の情報をご確認のうえ、税理士・年金事務所・農業委員会・農業共済組合(NOSAI)などにご相談ください。