結論:危ないのは刃ではなく、傾くことです
先に結論を書きます。
乗用の草刈機で本当に危ないのは、回っている刃ではありません。傾くことです。
農林水産省の調査では、乗用型トラクターの死亡事故の72%が「機械の転落・転倒」でした。刃や回転部に巻き込まれた事故ではなく、機械ごと転げた事故が大半です。
乗って作業する機械は、どれも同じ弱点を持っています。
そしてもう一つ。秋になっても、まだ終わっていません。
秋の草は、夏の草と別ものです
季節が変わると、生えてくる草が変わります。
秋口に増えるのはイネ科です。背丈が高くなります。
ただ、背が高いこと自体は、そんなに困りません。
厄介なのは茎です。長くて、丈夫。そして刈る時期を逃すと、どんどん手強くなります。
伸びきってから刈ると、何が起きるか
伸びきったイネ科に突っ込むと、こうなります。
- 刃の回転が落ちる → きれいに刈れない
- スピードが出せない → いつもの倍の時間がかかる
- ひどいときはエンストする
- そして何より、機械に負担がかかる
乗用のパワーがあっても、そうなります。
農家の実感
無理をさせた分は、あとで故障という形で返ってきます。修理代の方が、早めにもう一回りしておく手間よりよっぽど高い。
草刈りは、うまい下手より「時期」なのだと思っています。
数字で見ると、どこで死亡事故が起きているか
ここからは、農林水産省の調査の数字です。令和6年(2024年)が最新で、令和8年2月に公表されたものです。
全体で287人
まず全体です。
令和6年の農作業死亡事故は287人。前年より51人増えています。
内訳はこうなっています。
| 区分 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 農業機械作業 | 156人 | 54% |
| 農業用施設作業 | 15人 | 5% |
| 機械・施設以外 | 116人 | 40% |
半分以上が機械です。
機械のうち、何に乗っているときか
機械に係る事故156人の内訳です。
| 機種 | 人数 |
|---|---|
| 乗用型トラクター | 53人 |
| 農用運搬車(軽トラを含む) | 26人 |
| 自脱型コンバイン | 17人 |
| 歩行型トラクター | 11人 |
この4機種で、機械事故の69%を占めます。
「乗用草刈機」の数字は、出てきません
この統計に、乗用草刈機という項目はありません。
機種名が出るのは上の4機種だけで、残りの31%はひとまとめです。草刈機はその中にいます。
自分がいちばん長く乗っている機械の数字が、統計には載っていない。
だから「乗用草刈機で年間◯人」という数字は、この記事では書けません。
ただ、代わりに見るべき数字はあります。
乗用型トラクターの72%が、転落・転倒です
さっきの結論の根拠です。
乗用型トラクターの死亡事故53人のうち、38人が「機械の転落・転倒」。当該機種の72%です。
同じ傾向は、ほかの機種にも出ています。
| 機種 | 転落・転倒の割合 |
|---|---|
| 乗用型トラクター | 72% |
| 自脱型コンバイン | 59% |
| 農用運搬車 | 46% |
ここだけ押さえてください
乗って作業する機械は、転げて死んでいます。
乗用草刈機は乗用型トラクターより小さくて軽いので、そのまま当てはめることはできません。それでも、乗っている以上、転げれば下敷きになるという構造は同じです。
ここは安全装置ではどうにもなりません。
機械に乗っていなくても、落ちています
ついでに書いておくと、機械・施設以外の事故116人の中でも、「ほ場、道路からの転落」が19人(16%)います。
落ちるのは、機械の問題だけではないということです。
なお、この116人で最も多いのは熱中症で59人(51%)でした。機械よりも、暑さの方が人を殺しています。
9月は、まだ3番目に多い月です
「秋になったから、もう大丈夫」と思いたくなります。私も思います。
月別の数字を見ると、そうでもありません。
| 月 | 人数 | 全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 7月 | 58人 | 20% |
| 8月 | 46人 | 16% |
| 9月 | 30人 | 11% |
7〜9月の3か月で134人。全体の47%です。
9月は、8月より減ってはいますがまだ3番目に多い月です。秋の草刈りは、まだ危ない時期の中にあります。
私が毎年ヒヤリとする場所
数字の話はここまでにして、実際の話を書きます。
私が危ないと思っているのは、斜面と水路のきわの2か所です。
斜面
あまり説明の必要がないと思います。傾いたら終わりなので、無理な角度で入らない。それが大事です。
水路のきわ
個人的には、こちらの方が怖いと思っています。
理由は、縁の位置が動くからです。
このところの大雨で、舗装していない水路がどんどん広がっています。去年の縁と今年の縁は、もう同じ場所ではありません。
そこに草が茂っていると、地面がほとんど見えません。
見えているのは草の高さであって、その下に地面があるとは限らない。踏み込んでみて初めて、そこがもう水路だったと分かります。
去年の記憶で運転していると、そこに落ちます。
「気をつける」では、たぶん止まりません
答えははっきりしています。無理をしない。ギリギリを狙わない。
分かっています。毎年思っています。
それでも、やってしまいます。
理由を考えると、面倒くさがっているからではありませんでした。逆でした。
草刈りをしていると、刈り残しが気になります。縁のところに一列だけ残ると、そこだけがやたら目立つ。あと三十センチ寄れば、すっきり終わる。
その三十センチが、水路のきわだったりします。
つまり、危ないのは雑にやっているときではなく、丁寧にやろうとしているときでした。もう少しきれいにしたいと思ったときに、際に寄っています。
不注意で近づくのではなく、真面目にやろうとして近づいている。
だから「気をつけよう」では止まらないのだと思います。気をつけているつもりのときに、やっているからです。
このあたりは、noteのギリギリまで刈りたくなるに、もう少しだらだらと書きました。
決めたことは、たった2つです
対策と呼べるほどのものではありませんが、決めたことを書きます。
1. 見えないところには、乗って入らない
草で地面が見えない場所には、機械を寄せません。見えない=大丈夫かもしれない、ではなく、見えない=行かないにしました。判断を挟むと、そのとき都合のいい方に転びます。
2. 縁は、後日、刈払機で立って刈る
きれいに仕上げたい気持ちは、別の道具に回します。乗ったまま解決しようとするから際に寄るので、そもそも同じ日に仕上げようとしないことにしました。
刈り残しがあってもいい。縁が一列汚くてもいい。
きれいに仕上がった園地は気持ちがいいのですが、その気持ちよさのために際まで寄るのは、割に合いません。
年齢の話について
統計には、65歳以上が248人で全体の86%という数字もあります。
ただ、これを「高齢だから危ない」と読むのは違うと思っています。農業をしている人の年齢構成がそもそも高いので、この数字だけでは何とも言えません。
私が思ったのは別のことでした。自分も、その年齢に向かって進んでいます。
今は「まあ大丈夫だろう」で通っている場面が、そのうち通らなくなる。そのときに急に慎重になれるとは思えないので、通るうちに、やり方の方を変えておくしかないのだろうと思っています。
際は、道具を替えて対応しています
「後日、刈払機で立って刈る」と書いたので、実際に使っているものを書いておきます。
刈払機は、工進の36Vバッテリー式
うちの刈払機はバッテリー式です。工進の36Vのものを使っています。
理由は単純で、使いたい時にすぐ使えるからです。
主力はあくまで乗用草刈機です。刈払機の出番は縁とか、際とか、乗って入りたくないところだけ。使う時間は短いのに、使いたいときに必ず使えないと困るという道具です。
エンジン式刈払機だと、ここが引っかかります。
- 混合ガソリンを用意しておかないといけない
- しばらく置くと、キャブレターの機嫌を想像することになる
- かかるかどうか、始める前に一手間ある
バッテリー式にしてから、そこが全部なくなりました。メンテナンスも楽です。
そして静かです。これは思っていたより効きました。時間帯や近所を気にせず、「今ちょっとだけ」で出せます。
短時間・不定期に使う道具ほど、バッテリー式が向いているのだと思います。
私が使っているのはこれです。
すぐ使えることは、たぶん安全の話でもあります
ここが、今回いちばん書いておきたかったところです。
道具を出すのが億劫だと、人は乗ったまま済ませようとします。
エンジンをかけるのに一手間あって、混合を作るところから始まって、というのが頭にあると、「まあ、このまま寄れば刈れるか」になる。私の場合、際に寄る理由の何割かは、これだったと思います。
ここだけ押さえてください
「あとで刈ればいい」が本当に成立するかどうかは、道具がすぐ出せるかどうかで決まります。
出すのが面倒な道具は、結局使いません。そして乗ったまま、際に寄ることになります。
刃は、ツムラの切込二枚刃
刃は、よくある丸いチップソーではなく、ツムラの切込二枚刃を使っています。
- 草への食いつきがいい
- 伸びた草でも、粉砕してくれる
秋のイネ科のように長くて丈夫な草が残るのは、まさに縁のところです。そこを刈るための刃なので、相性がいいと感じています。
合わなければチップソーに戻せばいいだけなので、試しやすい部類だと思います。
そもそも、春に伸ばさないのが一番です
秋の話をしてきましたが、元をたどると春です。
この記事の前半で「草刈りは、うまい下手より時期」と書きました。もっと言えば、伸びる前に手を打っておくと、秋が楽になります。
春先、まだ背丈が低くて「これから伸びるぞ」というタイミングなら、うちは除草剤を使います。
散布に使っているのは、工進のバッテリー背負式噴霧器です。
- バッテリーの持ちがいい
- とにかく楽
手動のポンプを押しながら歩くのとは、もはや別の作業です。疲れ方が違うので、同じ日にまける範囲が広がります。結果として、伸ばさずに済む面積が増えます。
手動式からの買い替えなら、かなり体感が変わります。私は春の除草剤散布で使っています。
除草剤そのものの話は、別に書いています。
まとめ
- 乗って作業する機械で危ないのは、刃ではなく傾き。乗用型トラクターの死亡事故の72%が転落・転倒
- 令和6年の農作業死亡事故は287人。前年より51人増。うち機械が54%
- 統計に「乗用草刈機」の項目はない。機種名が出る4機種で69%、残りはひとまとめ
- 機械以外では熱中症が59人(51%)。「ほ場、道路からの転落」も19人
- 月別は7月58人・8月46人・9月30人。9月はまだ3番目に多い
- 秋の草はイネ科。時期を逃すと刃の回転が落ち、エンストし、機械が傷む
- 草刈りは、うまい下手より時期
- 危ないのは斜面と水路のきわ。大雨で舗装のない水路は毎年広がる
- 草が茂っていると地面が見えない。去年の記憶で運転すると落ちる
- 危ないのは雑にやるときではなく、きれいにしたいとき
- 決めたこと:見えないところに乗って入らない/縁は後日、刈払機で立って刈る
- 刈払機は工進の36Vバッテリー式。混合ガソリンもキャブレターの機嫌もいらない
- 道具を出すのが億劫だと、乗ったまま済ませようとする。すぐ使えることは安全の話
- 刃はツムラの切込二枚刃。伸びた草に食いつき、粉砕してくれる
- 春に伸ばさないのが一番。工進のバッテリー背負式噴霧器で除草剤をまいておく
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出典・ご注意
統計は農林水産省「令和6年の農作業死亡事故について」(令和8年2月26日 農産局プレスリリース)および農研機構 農作業安全情報センターの公表資料によります。数値は令和6年(2024年)のものです。本文中の作業の判断は筆者個人のもので、機械の取り扱いは必ずお使いの機種の取扱説明書に従ってください。